幸せと長生きの関係
幸せで長生きする方法とは?
今回のテーマは、「幸せと長生きの関係」について。
幸せと長生きの関係について様々な研究が行われ、意外な結果も出ています。
今回の健康情報では、様々な研究結果をご紹介しながら、幸せと長生きの関係や幸せにとって大切なことは何かを考察していきます。
幸福な人は長生きする!
幸福な人は長生きする。ほとんどの方は、にこにこ明るく元気で幸せそうな人の方が、鬱々として暗く不幸そうな人に比べて、長生きしそうというイメージをもっていらっしゃると思います。
このイメージですが、正にそのとおりであり、多くの研究結果でも「幸せな人ほど長生きする」と結論付けられています。
ケンタッキー大学のデボラ・ダナー教授の研究1)では、180名の尼僧の日記を調べ、楽しい・嬉しいなどポジティブな言葉を使う幸せそうな人と、寂しい・悲しいなどネガティブな言葉を使う人の60年後の生存率を調べました。
その結果、ポジティブな言葉を使う人の生存率は約90%、ネガティブな言葉を使う人は約34%だったという研究結果が報告されています。
琉球大学の白井こころ準教授らが日本で行った、主観的幸福感と死亡リスクの関係についての検討2)でも、「高齢者における幸福感と3年間の死亡ならびに認知症発症との関連性を検討し結果、日本の高齢者においても幸福感が高い者で、死亡のリスクが低い傾向が確認された。」と報告されています。
皆さまは、今、幸せですか?では、どうすればより幸せになれるのでしょうか?
幸福な人はどんな人?
幸福な人とはどんな人か?どうすれば幸せになれるのか?・・・この答えを引きすのに、2018年に行われた神戸大学数理経済学西村和雄特命教授の研究結果3)が大きなヒントになります。
「所得」、「学歴」、「自己決定」、「健康」、「人間関係」の5項目と幸福の関係を調べた研究です。
上位に来たのは、予想通りで① 健康と② 人間関係でした。おそらく、皆さまも質問されれば、5項目の中でこれら2つが幸せにとって必須であると答えられるでしょう。
残りの「所得」、「学歴」、「自己決定」の順位は、どうだったと思われますか?
皆さま、考えてみてください。
僕は、「所得」、「自己決定」、「学歴」の順と考えましたが、答えは、③ 自己決定④ 所得⑤ 学歴の順番でした。この研究には、以下の興味深い内容も記されていました。
【興味深い研究内容】
- 最も幸福な人の所得は年間1,100万円。
年間1,100万円までは、所得の増加と共に幸福度が上がり、1,100万円を超えると逆に幸福度が下がった。
(所得が上がれば上がるほど幸せなわけではない。) - 学歴は幸福度に対して統計的に有意な結果が得られなかった。
(幸福と学歴には、相関性がなかった。) - 自己決定は、健康や人間関係に次いで幸福度に影響を与え、所得の1.4倍、学歴の8.7倍の強さの影響があった。
研究結果でびっくりしたのが、学歴のみ統計的に幸せとの相関性が認められなかった(学歴は統計的に幸せと関係がなかった)こと。
学歴が高いほうが、所得が高く、経済的な面や就職でも自己決定がしやすく(例えば、好きな車や商品を買ったり、希望した会社に入りやすいなど)幸福度が高くなると思ったのですが、意外な結果でした。
自己決定できる(裁量度が高い)人ほど幸福で長生き!
自己決定と長生きの関係については、ロンドン大学の疫学および公衆衛生学のマイケル・マーモット教授らによる、ホワイトホール研究4)が参考になります。
ホワイトホール研究は、1967年から数十年にわたり、ロンドンの官庁街のホワイトホールで働く約28,000人の公務員を対象に、ストレスが健康に及ぼす影響を追跡した研究です。
その結果、40〜64歳の年齢層では、階層の最下層にいる公務員は、トップ層にいる公務員と比べて死亡率が4倍にもなりました。
公務員に限らないと思いますが、一般的に組織のトップ層は指示を出す側であり、最下層は指示に従う側になります。明らかに裁量度が高いのはトップ層です。
トップ層は、組織の中で重い責任がありその点においてはストレスが大きいと言えますが、死亡率は最下層の4倍低い。
その理由が、自己決定できる(裁量度が高いこと)と考えられています。
長生きする職業ランキング
自己決定できる人が長生きできることは、やや古いデータですが郡山大学の森一教授が発表した長生きする職業ランキング5)にも表れています。
- 4位医師・医学者、大学教授
- 5位俳人
- 6位歌人
- 7位陶芸家
- 8位小説家
- 9位詩人
ランキングを見ると、どの仕事も誰かに指図されるより、自己決定することの多い(裁量度が高い)仕事でした。
なお、僧侶については、大寺院で指図されて働く僧侶もいますが、総数としては地方など小さな寺院などで働く僧侶が多く、このような結果になったのだと考えられます。
自分で考え「主体的に」「自分で決めて」生きることが幸福につながり、寿命も延びるというお話でした。
人生、思った通りにならないことが多いと、僕自身実感しています。
読者の皆様の中にも、人生ままならないと苦しんでいる方もいらっしゃるかもしれませんが、様々な困難に対して、自分の人生の手綱は自分で握り、自分で決めることが幸せや長寿につながることを意識して、困難に対峙し乗り越えて頂ければと思います。
- 出典:
- 1)Danner DD, Snowdon DA, Friesen WV: Positiveemotions in early life and longevity:findingsfrom the nun study. J Pers Soc Psychol 80(5):804-013,2001
- 2)白井こころ, 近藤:克則介護予防を推進する地域づくりを戦略的に進めるための研究-主観的幸福感と死亡リスクの関係についての検討-:厚生労働科学研究費補助金(長寿科学政策研究事業)分担研究報告書
- 3)西村和雄,八木匡:幸福感と自己決定―日本における実証研究(改訂版):RIETI Discussion Paper Series 18-J-026
- 4) Marmot MG, Shipley MJ, Rose G. Inequalities indeath-specific explanations of a general pattern? Lancet 1984:1;1003-1006.
- 5)森一,工藤倫夫:1980〜82年における10種の職業集団の平均死亡年齢と死因に関する調査:⺠族衛⽣51巻144-145⾴